1ページ小説

正直すぎてごめんなさい

先輩はウソつきな人なんだという話を、最近よく聞く。

「ウソだよ、それはウソ。」
ほら、また。彼もまた言う。先輩は、

「先輩の言うことなんか信じるなって。」
先輩は俺のことを、

「まこと先輩がお前のこと好きなわけないじゃんよ。」
友達は言った。呆れたような笑顔で。


「ウソつきだなぁ、まこと先輩って。」



正直すぎてごめんなさい



少しだけ、先輩の隣がつらい今日。
俺は、バカ正直に人の話を聞きすぎるタチだから。
友達の言葉を思い出し、白いため息を吐き出す。

「どうしたんだよ。寒いの?」

からかうように俺の顔を見上げる、まこと先輩。かわいい。でも俺はその笑顔に、やりきれない苦笑いを返すしかなかった。

そんな俺のほんの少しの憂色を鋭敏に悟ってしまったらしく、先輩は軽く肩をぶつけてきた。
「ユカ。」

俺のこと「ユカ」って呼ぶのは、まこと先輩しかいない。他の皆は「マユ」って呼ぶ。
そう、繭荷宏春にとって、まこと先輩は特別。一番特別な人。恋人だ。大好きだ。

だけど、まこと先輩は?

「ユカ、ぼけっとしすぎだよ。いじめるぞ。」
「いじめたらいじめ返しますから。」
「…な、何、そんな真剣な顔して…」

まこと先輩は?

「……俺、よく聞くんですよね。…先輩の話、なんですけど。」
「なに……?」

俺の好きな先輩は、すごく正直な人だ。
だから俺は好きになった。
だから、こんなに不安なのだ。
ウソをつかないから好きになったのに、先輩が俺のことを好きだっていうのがウソかもしれないなんて。

あまりにも俺の周りの人たちが、それを忠告してくるから。

「先輩って、浮気してるんですか?…っと、危ね…」
先輩が足元の空き缶を踏んでマンガのようにコケそうになったので、腕を引いて支えてあげた。

「またストレートに聞くねー、ユカも…」
苦笑しながら体勢を立て直す。

「してるんですか、してないんですか。…俺みんなから聞くんですよ。」
「……へぇ?」

先輩の眉根がきゅ、と寄せられた。真面目に取り合ってくれる気になったらしい。
意を決して、俺は口を開いた。

「まこと先輩はやめとけ……って、言われるんです。先輩がマユのこと嫌いだって言ってたよー、とか、浮気現場見ちゃったー、とか、あの人はウソつきだ…とか、平気で浮気するとか……、何でまことなんだ…って、まこと先輩が俺のこと好きなわけねーって…」

言ってる内に、今までにないくらい大きな不安が込み上げてきて、俺はその続きが、言えなかった。

先輩はウソつきなんですか?俺のこと好きって、ウソなんですか?

もしかして、俺だけがバカ正直だったんだろうか。
なんだか本当に、バカみたいだ。


「ユカはさ、僕のどこが好きになったんだっけ?なんで僕を選んだんだっけ?」

責めるように、しかし思い直したように余裕の色を含ませて、まこと先輩は俺を見上げた。

「……正直なところ。」
「そう、でしょ?」
「そう……です。」
「そうだよね。」

じわじわと、大切な何かが滲み出していた。
先輩はウソをつかない人だから、そこが素敵だと思って、俺はこの人を好きになった。
知ってる。だから、俺はこの人を選んだんだ。

先輩はにこりと笑って、事もなげに言った。

「その人たちは、ウソついてるよ。」

「……そうですか。…そうだったんだ…」

先輩は口を尖らせて呟いた。
「ユカはモテモテなんだから、ちょっとは気を付けてよ……」
「はい?」
言われた意味が分からなくて、聞き返す。
「なんでもないよ。……あのさ、僕も聞いていい?」
いーですよ。と頷いた。

「ユカは、僕のこと好き?」


先輩は正直な人だ。だから俺も精一杯、気持ちを隠さずに向き合おうって決めたんだ。


「大好きですよ。愛してます。」


先輩は少し赤くなって、照れたように笑った。


「正直でよろしい!」



END!

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
あのね、先輩。投稿作品でした。
モテモテ後輩×よくできた先輩みたいな感じです。

ありがとうございました!

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