小指と小指を結んで



プトレマイオス、通称トレミーから下りて巡礼の旅に出たのは、特に理由があったわけじゃない。巡礼という行動こそに意味があるわけではないので、わたしに理由があるないに関わらず、そこに何の意味もないのである。
それでも巡礼するのは、アレルヤが居るからだ。

ハレルヤを喪い、同胞の命すらその手で奪った。その悔いからくる思いなら、脳量子波でひしひしと伝わっている。わたしはソーマ・ピーリスを失ったわけではないから、脳量子波を扱うことは容易だった。

巡礼先の宿泊施設で、寝ているアレルヤから伝わる思念が、わたしの心をチクチクと差す。男女が同じ部屋なのはどうかとアレルヤは言ったが、単に2人部屋しか空いていなかっただけだ。
穏やかに眠っている彼の、後悔、苦痛、そういった負の意識ばかりの彼の脳量子波がいきなり途絶えた。



「…アレ、ルヤ…?」


背筋が凍る。
何か来る、そう思ったときにはもう手遅れだった。




「よぉ、女ァ」
「貴方…ハレルヤね」
「何だ、覚えてたのかよ」
「忘れるわけないじゃない。わたしがつけた名前だもの」
「ちっ、忘れちまえよ。俺のことなんて」


そう言ったハレルヤにふっと笑うと、怪訝な顔をされた。


「どうして、貴方が…?」
「死んだくせに、ってか?」
「…違、」
「ダブルオーガンダムの太陽炉の粒子…、あの加速粒子は俺のレベルと同じだ。もっとも、俺は廃棄された人間。レベルがどの位置にあるかなんて、もうわからねぇよ」


『ハレルヤ』は作られた人格。戦闘が無ければ、ただの量子だ。
…ソーマ・ピーリスも、そうだったのだろうか。だからすぐに、意識を手放したのか。

もしそうなら…






「筒抜けなんだよ…全部」
「…え」
「俺は『アレルヤ』じゃねぇ。脳量子波だって使えるし、お前の考えてることはすぐにわかる」
「ハレルヤ…」
「もうすぐ俺は消えるから、関係ねぇんだけどな」






『消える』
その言葉に、胸が痛んだ。
今も貴方はここに居るのに?





「…や、だっ」

衝動的にハレルヤの服を掴むと、彼は驚いて目を見開く。その視線を一身に受けて、恥ずかしくなった。


「…っあ…、その…っ」
「バーカ」

バチン、と額を指で弾かれ、理不尽な展開に口を尖らせると、ハレルヤは苦笑する。


「ハレルヤ…」

くく、と笑うハレルヤは、ゴロンと横になった。座っているわたしを上目遣いに見るハレルヤの髪を撫でる。



「…消えないで。ずっと、わたしの側に居て…」
「意外に女々しいよな、お前。…だけど、」


ずい、と突き出された小指の意味がわからず首を傾げると、彼はまた笑った。


「お前の気持ち分は応えてやるよ」


ん、とまた突き出すハレルヤの小指と自分の小指を絡める。

遠い昔にアレルヤから聞いた、『約束』を意味するサイン。



目を閉じたハレルヤは整った寝息をたてている。『アレルヤに戻った』のだろうか。

最後まで『マリー』と呼んではくれなかったけれど。そういう不器用なところが、放っておけないのだ。



「約束、だからね?」






わたしがずっと想っていれば、貴方はココに居るのでしょう?
そういう、約束でしょう?
だから、わたしは貴方を想うの。

結んだ小指に誓って、わたしはアレルヤの隣で貴方を想い続けるわ。





2009.11.8.

いろいろ詰め込んだのに、削りました。何故か。それは、伏線を貼ってるのにも関わらず回収できなかったからです。(笑)
ハレマリーファンの方が居ないので恐縮ですが、この企画に参加させて頂いてありがとうございました!

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